石鹸について
石鹸は、家庭でも、企業でも、様々な場所で身近な生活用品として利用されていますが、そもそもこの石鹸と呼ばれるものがいつ頃から存在し、現代に至るまでどのような進化を遂げてきたのでしょうか?あまり知られていない、石鹸の歴史と現在多くの種類が出回っている固形石鹸の選び方についてまとめました。
石鹸の誕生
現代の生活において、赤ちゃんからお年寄り、ペットまで、幅広く数多くの用途によって愛用されている石鹸ですが、どのようにしてその存在が誕生し、生活用品として根付くようになったのでしょうか?
石鹸がいつ誕生したのかは、はっきりと記録には残されていないようです。
一説によると、古代ローマ時代には誕生していたのではないかと言われています。
しかしその当時“石鹸”と呼ばれるものは、現在のように汚れを落としたり何かを洗う為のものではありませんでした。
古代ローマ時代には、サポーという名の丘にある神殿で焼いた羊を神様にお供えする儀式が風習のひとつとして存在していました。
その羊を焼いている最中に、垂れ落ちた脂肪分が木の灰に混ざり込み、現在でいう“石鹸”のようなものが出来あがったのです。
その“石鹸”のようなものが染み込んだ土は、汚れが落ちる土として当時の人々に大変重宝されていました。
現在、石鹸は動物や植物から抽出される油分をアルカリ剤で煮ることによって作られますが、古代ローマ時代は、羊を焼く時に使用されていた木灰が熱されることにより、現在でいうアルカリ剤の役目を果たしていたのです。
この一連の儀式が行われていた“サポー”の丘にちなんで、石鹸を表す英語“ソープ”が誕生したと言われています。
また、古代ローマ時代と同じ時期に、現在のイラクであるメソポタミアにおいても“石鹸のようなもの”が作られていたことが判明しています。
当時の人々が羊毛の洗浄方法と石鹸の作り方について、楔形文字で記録として残していたと言います。
古代ローマの人々と同じように、様々な成分を混合させることにより“石鹸のようなもの”を作り出し、現在と同じように漂白剤として使用されていたと同時に、消毒を行うための塗り薬、下剤としても役目を果たしていたそうです。
この当時の“石鹸のようなもの”は現在の石鹸のように固まっている物質ではなく、軟らかい物質であったそうです。
その作り方の原料となっていた動物性の油と木灰から出来上がった“石鹸のようなもの”は、不快なにおいがしたとされています。
まだ、どちらの時代においても“石鹸”という存在が確立されていなかった為、不確かな物質とされていました。
今ではいい香りがして当然である石鹸が動物を炙って出て来た油と木灰で作られていたなんて想像もつきませんが、当時の人たちにとっては魔法のような不思議な物資であったのでしょう。
製造から普及されるまで
本格的に“石鹸”と呼ばれるものが製造され始めたのは現在でいうスペインを中心とした地中海沿岸地域であり、8世紀頃には職業としても定着していたそうです。
しかし、この頃もまだ動物性の油を抽出し、木灰から作られていた為、古代ローマ時代やメソポタミア文明で作られていたものと同じように不快なにおいがしたと言います。
12世紀頃になったあたりからは、地中海沿岸のオリーブから抽出された油と海藻灰を原料とし作られた、現在と同じような硬い石鹸が出来始めたそうです。
この時期に作られた石鹸は硬い為、これまでの軟らかい石鹸よりも使用しやすく、においもあまりしなかったとのことで、当時のヨーロッパでは徐々に人気が出てきたようです。
その頃には、スペインだけではなくフランスやイタリア、ベネチアといった数々の国により石鹸製造が盛んに行われていたとされます。
17世紀頃にはいるとフランスのマルセイユが石鹸製造の中心となり、より多くの人々に石鹸が普及されはじめたそうです。
ちなみに、現在“サボナ”と呼ばれる地域はフランス語で石鹸を意味する“サボン”が由来となっていて、その他にも現在の日本でも馴染み深い“マルセイユ石鹸”はフランスのマルセイユという地域が発祥の地となっています。
18世紀になる頃には、これまで海藻灰や木灰から石鹸作りに必要なアルカリを生産していましたが、アルカリ剤となるものの生産が追い付かなくなってしまいます。
そこで、フランス人であるルブランという化学者が海水に含まれた塩分からアルカリ剤の合成に成功し、石鹸の大量生産が可能となったのです。
その後100年足らずで、食塩水を電気分解することによって作り出す“電解ソーダ”を用いた石鹸製造がドイツで一般的となり、現代の石鹸製造において世界中で一般的となっています。
石鹸が作り出された頃は大量生産が難しかった為、生活用品として使用されることはなかった石鹸ですが、石鹸製造のために必要なアルカリ剤が大量生産されることにより、石鹸にかかるコストも下がっていき、安く手に入るようになりました。
石鹸が多くの人々へ行き渡ったことにより、衛生状態が良くなり、感染症などといった様々な病気が減り、数多くの人を助けたことでしょう。
日本と石鹸の歴史
ここまでは石鹸という不思議な物質として扱われていた頃から海外で石鹸が一般的になるまでの歴史を辿って来ましたが、日本にはどのようにして石鹸が伝わって来たのでしょうか??
日本に石鹸がやって来たのは16世紀といわれており、戦国時代の終わり頃、ポルトガルの船により伝わって来たとされています。
この頃の日本では、石鹸を使用できるのは大名や将軍など地位のある限られた人たちのみが使用できていたそうです。
その役割は、現在のように身体を洗ったり、衣類の汚れを落としたりするものではなく、下剤や塗り薬といった薬用に使用され、当時の日本人にとっては大変贅沢で、なかなか手に入れることの出来ないアイテムであった為、一般的な認知度も低かったことでしょう。
石鹸はポルトガル語で“シャボン”といい、石鹸を日本に持ち込んだのがポルトガル船であったこともあり、当時の日本人も同じように石鹸を“シャボン”と呼んでいたそうです。
一般的に石鹸が売り出されるようになったのは明治時代初期。
発売当初は生活用品としてあまり馴染まれるものではなかったようですが、明治23年には日本で初めて、日本で石鹸のブランドが立ち上げられました。
しかし、まだ当時の人々にとって石鹸は高級品であった為、認知度は上がりつつあったものの、この時代でもまだ贅沢品とされていました。
明治時代の後半に差し掛かると石鹸の値段も下がり始め、その頃になってようやく一般的に今と同じように、身体を洗ったり、洗剤、洗顔として日常的に使用されるようになったそうです。
古代ローマ時代から辿ってみると、日本に石鹸が普及し始めるまで、長い時間がかかったのかも知れません。
そんな長くはない歴史のなかでも、石鹸は時代や国境を越えて役に立つ存在として人々が広めあって来たのでしょう。
日本に石鹸がなかった頃
石鹸が一般的に普及されるようになるまで日本では、どのようなものを使いこなし、身体の衛生状態を保っていたのでしょうか?
古くから行われていた方法としては、泉や川の水を利用し、身体を洗浄していたと考えられます。やがて、植物のアクや米ぬかを使用し身体を洗うことによって、身体の汚れが落ちることはもちろん、洗った後に肌をしっとりとさせる効果があった為、江戸時代の女性は美肌であったとされています。
現代の日本でも、米ぬかの成分が含まれた石鹸や洗顔用品が多く見られますが、これは江戸時代に、もうすでにはじまっていたことなのです。
さらには果皮、ツバキの実の油かす、根菜類の煮汁などを使用することで身体の汚れが取れることを知り、昔の日本人は他の国に多く見られる動物から抽出された油ではなく、主に植物から抽出される油分を利用し、身体を洗浄することで衛生状態を保っていたのでしょう。
その時に使用した米ぬかは畑の肥料として再利用していたそうです。
また衣類の汚れを落す時には、カマドを使用したときに出る灰やお米、大根、豆の煮汁を利用していたそうで、現在も油で汚れた食器を煮汁のなかに浸しておくと、洗剤を使わなくても汚れがよく落ちます。
お米や大豆、根菜類などを煮込んでいる時に、細かい泡が吹き出しこぼれることがありますが、それはサポニンという成分が溶けているという証拠で、そのサポニンには水と油分を混合させたり、泡を立て、汚れを落としたりする石鹸と同じような効果があるのです。
このような生活は、第二次世界大戦が終わる頃までの日本人にとっては一般的な生活の知恵でした。
現代の日本では、食器や衣類などの汚れを落す時に合成洗剤を利用することがほとんどですが、世界にはまだサポニンの成分が含まれた植物を利用し、食器や衣類の汚れを落としている民族がいくつか存在しているようです。
石鹸の誕生から日本で一般的に使用されるまでは、長かったかも知れませんが、日本人は石鹸がない時代からも、生活の中でリサイクルを繰り返していたので、石鹸の存在は人々にとって、画期的なアイテムであったでしょう。
人気の固形石鹸
明治時代から現代においてたくさんの人の役に立ち、幅広く使用されるようになった石鹸ですが、“石鹸”といえば固形になっているものをイメージする方が多いのではないでしょうか。
洗顔や入浴時にボディーソープとして使用したり、手洗いの時に見かけることの多い固形石鹸。
他にも、髪の毛を洗えるタイプや洗濯用洗剤の役割を果たすタイプなど、数多くの用途に応じた固形石鹸が存在しています。
固形石鹸と言っても純石鹸や化粧石鹸といった種類があり、配合されている成分や効果も商品によって様々な違いがあります。
種類が多すぎてよくわからないまま購入していたり、何を選べばいいのか分からず、困ってしまうこともあるのではないでしょうか。
ここでは、最も一般的に多く利用されている洗顔やボディーソープとして作られている固形石鹸の成分と効果について、肌質の特徴を基準にまとめてみました。
乾燥しやすい肌質の方
保湿成分を求める乾燥しやすい肌質の方には、見た目が透明になっている、クリアタイプの石鹸をお勧めします。
このタイプの石鹸は保湿に効果的なグリセリンが含まれている為、洗い流した後にしっとりとした仕上がりになるのが特徴です。
グリセリンは、肌に水分を閉じ込め保湿する作用のある、大変優秀な保湿材として世界中で愛用されています。
植物から抽出された油で作られているので、なかには食品として使用されているものもあり、安全性も高い為、安心して使用することが出来るでしょう。
乾燥しがちな冬場や面倒なスキンケアの手間を少なくしたい方にもクリアタイプの石鹸は、乾燥した肌への手助けに最適と言えるでしょう。
敏感で刺激に弱い肌質の方
基本的に、肌質が敏感な方にも保湿効果のある乾燥肌向けの石鹸がお勧めですが、敏感肌のなかでも、刺激に弱いという方は、石鹸の成分に殺菌剤や添加物の含まれていないタイプを選びましょう。
刺激に対して敏感に反応をしてしまう肌質の方には「合成保存料」「着色料」「香料」「鉱物油」「アルコール」といった、少しでも肌に負担をかけてしまう成分が入っている石鹸は避けた方がよいです。
無添加石鹸で香りのついたものを選ぶ場合は天然由来の香料が含まれているものを選ぶなど、なるべく成分が合成されていないものをお勧めします。
このような無添加タイプの固形石鹸は、赤ちゃんやアレルギー体質の方も安心して使用することが出来るので、最も無難でしょう。
油分が気になる肌質の方
肌質がオイリーであったり、サッパリしたい!という方には見た目が透明ではない石鹸をお勧めします。
このタイプの石鹸は最も多く販売されているタイプで、保湿成分を控えたうえに、洗浄力が高く、洗顔料のみならず、手洗いや身体を洗い流す時にもこちらの固形石鹸が使用されています。
皮脂を洗い流しやすくなっているので、オイリーな肌質の方はもちろんですが、ノーマルな肌質の方にも使いやすいスタンダードタイプの石鹸と言えるでしょう。
しかし、洗顔料として使用するのであれば添加物が多く含まれているタイプは避けておきましょう。
添加物が多く含まれることで洗浄力が強くなりますが、肌の水分を保護していたはずの皮脂まで洗い流してしまい、乾燥肌の原因となりやすいので注意しましょう。
成分や効果を知らないまま使用すると、逆効果になってしまうこともあります。
特に洗顔や身体を洗う石鹸は毎日使用するものなので、注意が必要です。
昔とは違い、様々な体質に合わせた固形石鹸が出回っているので、自分にとって必要な要素を捉えた石鹸が必ずあるでしょう。